日向灘でM8級の地震可能性 1662年は津波が10メートル超の試算
宮崎県沖の日向灘のみを震源域にマグニチュード(M)8級の地震が起こり得る-と指摘されている中、京都大防災研究所などのグループが、そうした地震に関する研究成果を発表。
同海域で過去最大級だったとされる1662年日向灘地震は、実際は規模がM7・9で、10メートルを超える津波が沿岸を襲った可能性があることを初めて科学的に示した。
日向灘で発生した歴史記録のある地震の中で過去最大級とされているのは、1662年10月31日の地震。これまでの研究では、震源は宮崎県日南市沖の浅い場所で、規模はM7・6、津波の高さは4~5メートルとされてきた。宮崎の地元では外所(とんところ)地震の呼び名もある。
今回、新たな研究成果を発表したのは、京大防災研宮崎観測所の山下裕亮助教、産業技術総合研究所の伊尾木圭衣主任研究員、北海道立総合研究機構の加瀬善洋研究主任のグループ。
陸地に残る過去の津波堆積物から地震発生の仕組みなどを探る研究の一環で、2017年から外所地震に関する調査を進めてきた。
まず、津波による浸水範囲を把握するため、宮崎県沿岸の62地点で地質調査を実施。このうち日南市小目井で確認できた砂の堆積層が、外所地震の津波によってもたらされたと判断できた。そこで、この地点まで浸水させる津波を生み出す地震がどのように起きたのか、シミュレーションを行った。
その結果、導き出されたのが、M7・6とされてきた外所地震の規模は、M7・9に上方修正して「M8級だったと考えるべきだ」との結論だ。Mが0・3大きくなれば地震のエネルギーは約2・8倍、0・4大きくなれば約4倍になり、被害も甚大となる。
一方、津波の高さ(潮位)の試算では、宮崎市の大淀川河口付近を境に急激に津波の高さが増し、その南を流れる加江田川の河口周辺で最大となり、「10メートルに達する場所もあった」と推定される結果となった。
山下助教は防災の観点から「南海トラフ巨大地震と直接の関わりなしに日向灘で起きる地震であっても、M8級の規模になり得ることを示せた」。ただ津波堆積物の調査地点が限られており、断層の動きをより正確に推定するにはデータ不足だったという。対策に必要な被害想定を行う上で「課題が多い」とも話す。
今後、過去の津波の痕跡が残っていそうな場所を探し出し、今回のような地質調査を数多く行うことが必要だ。県をはじめ沿岸自治体や民間とも連携した調査態勢づくりが望まれる。
研究グループがシミュレーションで用いたのが、「浅部スロー地震の震源域で断層面が大きく動いた時、巨大な津波を発生させる」という仮説だ。
「浅部スロー地震」とは、海側のプレートが陸側のプレートの下に沈み込んでいる日向灘などの浅い場所で、プレートの境界面(断層面)が通常の地震よりゆっくりずれ動く現象。
これが起きやすい区域(浅部スロー地震の震源域)では、しばしば断層が大規模に動いて津波を巨大化させることが、東日本大震災や南海トラフ地震などの研究で明らかになってきた。
今回その知見を踏まえ、外所(とんどころ)地震を起こした断層面の動きを推定するためのモデル(イラスト参照)を設定。従来の観測で分かっている浅部スロー地震の震源域に位置する(3)の範囲の動きが大きな津波の生成に関わり、陸地に近い(1)と(2)の範囲の動きが主に地盤を液状化させるような強い揺れを生み出す-との考えに基づき解析した。
断層面が延長約80キロに渡って(1)の範囲で2メートル(2)の範囲で4メートル(3)の範囲で8メートルずれ動いた-と仮定すると、地質調査結果をうまく説明できたという。京大の山下裕亮助教は「地球物理学の仮説で、地質学の成果を検証できた点に学術的な意義がある」と説明している。
西日本新聞社20230125