熱帯低気圧とは
熱帯低気圧:tropical cyclone
熱帯から亜熱帯の海洋上で発生する低気圧の総称。
熱帯低気圧は、低気圧中心、閉じた低気圧性の大気循環・強風、および大雨をもたらす渦巻き状の雷雲などの特徴をもつ、急速に回転し激しい暴風雨を伴う大気。
発生域や強さに応じて、台風・ハリケーン・サイクロンなど、異なる呼び名で呼ばれる。本質的には同じ気象現象。
熱帯低気圧は典型的に比較的暖かい海域で発生する。
熱帯とは
熱帯:Tropical
熱帯は、地理的な発生源を示している(ほぼ排他的に熱帯の海洋上で発生することに由来)。
低気圧とは
低気圧:Cyclone
中心部のくっきりとした目の周りで、北半球では反時計回りに、南半球では時計回りに吹く、渦を巻くような風の動きを指す。
台風とは
台風:Typhoon
台風は、東経180度より西の北西太平洋および南シナ海に存在する熱帯低気圧のうち、最大風速が約17m/s以上になったものを指す。
台風の定義
熱帯の海上で発生する低気圧を「熱帯低気圧」と呼びますが、このうち北西太平洋(赤道より北で東経180度より西の領域)または南シナ海に存在し、なおかつ低気圧域内の最大風速(10分間平均)がおよそ17m/s(34ノット、風力8)以上のものを「台風」と呼びます。
台風とされるためには、存在する「位置」と「強さ(勢力)」の条件を満たす必要があります。
台風の発生と海水温
一般的に台風は海面水温が26~27℃の海域で発生するといわれています。ただし、大気の状態も重要な要因であり、海面水温が高いだけでは台風の発生・発達につながりません。
台風番号
日本の気象庁は、管轄する監視対象エリアで発生した台風について、番号を付与する。
台風に付ける番号は、「毎年1月1日以後、北西太平洋で最も早く発生した台風を第1号とし、以後台風の発生順に番号を付けています。(気象庁)」
台風の名前
台風において、国際的に使用される名前は、一般的に国際名とされます。
台風の名前には、終戦直後から1999年まではアメリカ海軍の合同台風警報センター(JTWC)による英名が、国際的な名称として付けられていました。
2001年1月1日からは、英名表記に代わり、台風の国際名として、アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)と世界気象機関(WMO)で組織する台風委員会が制定した「アジア名」を使用することになりました。
フィリピンでは台風に独自の名前
フィリピン大気地球物理天文局(PAGASA)は、北太平洋で発生した熱帯低気圧(台風を含む)に対して、国際的に命名・使用される国際名(現アジア名)とは別に、独自のリストにある名称「フィリピン名」を命名しており、フィリピン国内では、このフィリピン名の方が、アジア名などの国際名よりも一般的に使用されています。
台風の大きさと強さ
日本の気象庁では、台風の最大風速・最大瞬間風速によって、台風の「強さ」を分類しています。
また、日本の気象庁では、「強さ」の分類に併せて、「大きさ」の分類も行っています。
スーパー台風
民間の気象情報会社やニュース番組、テレビの天気予報等で「スーパー台風」という呼称が用いられる場合がありますが、日本の気象機関において「スーパー台風」の呼称について明確な定義は存在しません。
ただし、JTWC(合同台風警報センター)の区分のうち「最も強い」台風の区分として、「Super Typhoon」が定義されています。
台風の特別警報とは
台風の特別警報の発表基準は、「伊勢湾台風」級(中心気圧930hPa以下又は最大風速50m/s以上)の台風や同程度の温帯低気圧が来襲する場合(ただし、沖縄地方、奄美地方及び小笠原諸島については、中心気圧910hPa以下又は最大風速60m/s以上)
特別警報(気象)について -台風等を要因とする特別警報-
台風等を要因とする特別警報はどのような災害を対象に発表されるのですか?
台風等を要因とする特別警報に該当する主な事例は、「室戸台風」「伊勢湾台風」等です。
台風等を要因とする特別警報はどのようなときに発表されるのですか?
台風等を要因とする特別警報は、数十年に一度の強度の台風や同程度の温帯低気圧により暴風・高潮・波浪・暴風雪になると予想されるときに発表します。具体的には、「伊勢湾台風」級(中心気圧930hPa以下又は最大風速50m/s以上)の台風や同程度の温帯低気圧が来襲する場合(ただし、沖縄地方、奄美地方及び小笠原諸島については、中心気圧910hPa以下又は最大風速60m/s以上)を発表指標としています。
沖縄地方などにおける発表指標が本土と違うのは何故ですか?
沖縄地方、奄美地方及び小笠原諸島では、中心気圧930hPa以下又は最大風速50m/s以上の台風が襲来する頻度が本土よりも高いため、中心気圧910hPa以下又は最大風速60m/sの台風を発表指標としています。
温帯低気圧は暴風警戒域や強風域の発表がなく、被害範囲が不確定なので、台風とは別の要因に分類すべきではないですか?
温帯低気圧は台風のように暴風警戒域を示してはいないものの、猛烈に発達する温帯低気圧のような現象についても暴風の対象となる地域を予想することが可能です。このため、台風・温帯低気圧によらず、伊勢湾台風級に発達した低気圧により猛烈な風が吹くような地域に対し特別警報を発表することとしています。
気象庁:特別警報(気象)について
台風の記録
1年間に発生する台風の個数
1年間の台風の発生個数は、1991年から2020年までの30年間の平均値で、およそ25.1個/年です。
統計開始以降で、最も少ない台風発生数は2010年の14個、最も多い台風発生数は1994年・1971年の36個です。
1年間に発生する台風の数|1951年の統計開始以降の月別台風発生数
気象庁命名台風
害規模や被害の甚大であった気象現象について、政府や気象庁によって特に別の名称をつける場合があります。
最近では、静岡県や関東地方、甲信越地方、東北地方などで記録的な大雨となり、甚大な被害をもたらし、昭和54年台風第20号以来、40年ぶりに死者100人を越えた令和元年台風19号(ハギビス)が「令和元年東日本台風」と命名されています。
上陸時(直前)の中心気圧が低い台風
気象庁の公式記録としては、昭和36年台風第18号「第2室戸台風」が、上陸時925hPa
陸上における中心気圧が低い台風
昭和52年台風第9号「沖永良部台風」で、907.3hPa
最大瞬間風速が最も大きな台風
昭和41年台風第18号「第2宮古島台風」で、85.3m/s
※山岳における最大瞬間風速は、1966年9月25日の「富士山」で、91.0m/s
気象庁命名台風と気圧・風速の観測記録|上陸直前の中心気圧が最も低い台風
発生日時が早い台風
発生日時が最も早い台風は、平成31年台風1号パブークで、2019年1月1日発生。
発生日時と上陸日時の早いもの遅いものの順位統計・長寿台風の記録
越境台風
台風は、「東経180度より西の北西太平洋および南シナ海に存在する」ことが条件のひとつですが、180度経線を越え気象庁の観測範囲内に入域したハリケーンを「越境台風」として、ハリケーンから台風となり、以降、気象庁が監視を引き継ぎます。
台風による被害
停電
2018年の台風21号では、関西電力で述べ219万戸超が停電しました。
倒木で現場に立ち入ることができない、山間部の大規模な送電塔が被害を受けるなどしたことで停電は長期化しました。
関西電力では、台風21号の影響で近畿圏2府6県で204万戸が停電。その後、停電が長期化 延べ停電数219万戸超に
建造物への被害
台風は、風や雨による家屋倒壊や浸水害を引き起こしますが、2018年の台風21号では、タンカーが強風に煽られて関西空港の連絡橋に衝突、関西国際空港が孤立状態となる事故が発生しました。
台風の塩害 停電発生や農業被害、車が錆びるなどの影響も
台風では、高潮などで海水が陸地に大きく入り込んだり、河川からの逆流などが発生し、塩水による「塩害」が発生することがあります。
また、台風で舞い上げられた海水が内陸部に運ばれ、広い範囲で塩害が発生することがあります。
異常潮位
「異常潮位」とは、台風などによって引き起こされる「高潮」や地震に伴う「津波」とは異なった原因で、潮位(海面の水位)がある程度の期間(概ね1週間から3か月程度)継続して平常時※より高く(もしくは低く)なる現象のことです。暖かい海水の渦(暖水渦、中心付近は周辺よりも海面の水位が高い)が接近した場合や、太平洋側では黒潮が通常より四国、本州などに接近した場合のほか、気圧配置などその他の要因と複合して発生すると考えられています。なお、例年、夏から秋にかけては、他の季節と比べて全国的に潮位は高くなりますので、この期間に異常潮位や高潮が生じて潮位がさらに高くなると、浸水などの被害を生じることがあります。最近では、平成13年(2001年)に南西諸島及び関東地方から九州地方の沿岸で、平成15年(2003年)に南西諸島及び東海地方から九州地方の沿岸で、いずれも夏から秋にかけて発生しています。
※平常の潮位とは、台風などの影響がない場合の、月と太陽の引力などをもとにあらかじめ計算された潮位の値です。
海外での台風影響
令和5年台風5号トクスリは、フィリピン・台湾・中国に影響を及ぼし、特に中国では大雨による大きな被害が発生しました。
台風5号 中国福建省で88万人被災 熱帯低気圧後も北京で12年ぶり「赤色警報」
台風を監視する海外の機関 JTWC
台風は、船舶や航空機の航行に支障を来す恐れがあり、気象は軍事的にも重要な情報の一つであることなどから、世界各国の気象機関は台風だけでなく多くの気象情報を収集しています。
米国では、NHC(National Hurricane Center)が主に米国領土に影響するハリケーンの監視・警告活動を行っていますが、台風ではJTWC( Joint Typhoon Warning Center)合同台風警報センターが日本でもよく知られています。
JTWCは、アメリカ海軍とアメリカ空軍がハワイ州真珠湾海軍基地に共同で設置した、アメリカ国防総省の機関で、北西太平洋・南太平洋とインド洋で発生する熱帯低気圧を偵察するとともに予報や警報を発し、国防総省および他の合衆国政府の諸機関を支援する任務を行っています。本来は米国の軍事機関ですが、その情報は一般にも公開されています。
台風の気象用語|気象庁
台風の観測
気象庁の台風観測範囲
日本の気象庁は赤道以北、北緯60度まで、東経100度から180度までの範囲にある台風の位置決定及び予報について担当しています。
海上の台風の中心気圧の測定方法
台風が海上にある場合は、島や船舶などの観測結果と気象衛星で観測した画像を用いた解析を行って中心気圧などを決めています。気象衛星で観測した画像による台風の解析では、眼の有無や形、中心付近の発達した雲の形や大きさ、雲の温度などから、台風の強度(中心気圧と風速)を統計的に導き出す方法を使っています。
台風の進路に関係する偏西風の状況
台風の進路に影響を及ぼすような「偏西風」の実況や予想は、気象庁ホームページに最新の図を掲載しており、12時間ごとに更新しています。実況は、高層天気図をご覧ください。偏西風の位置は、高層天気図で帯状に風速の大きい領域に対応します。例えば200hPa(上空約12km)の天気図を表示するには、9時のものは「00UTC」を、21時のものは「12UTC」をクリックしてください。200hPaの等高度線が実線で、等風速線が破線で示されています。また、矢印でジェット軸が示されており、これが偏西風の位置ととらえれいただければと思います。詳細は、高層天気図についてをご覧ください。予想は、数値予報天気図をご覧ください。250hPa、300hPa、400hPa、500hPaの24時間後の風速分布予想図があり、参考になると思います。(気象庁)
冬や春に日本付近で急速に発達する低気圧を台風と呼ばないのはなぜですか?(気象庁)
熱帯の海上で発生・発達した台風と、暖かい空気と冷たい空気の境目で発生・発達する温帯低気圧は全く異なる構造を持ち、強い風が吹く場所や強い雨が降る場所の特徴も異なります。冬や春に日本付近で急速に発達する低気圧は、温帯低気圧ですので台風ではありません。急速に発達する低気圧は、暴風や高波、大雨や大雪などの災害が予想されるため、気象情報や警報・注意報などで危機感を伝える様々な工夫をしています。(参考)雨と風(雨と風の階級表)[PDF形式]
温帯低気圧に変わりました 熱帯低気圧に変わりました
台風が消滅すると気象庁は、「温帯低気圧に変わりました」「熱帯低気圧に変わりました」と発表します。
台風が台風であるための条件は、1:熱帯低気圧である、2:最大風速が基準値以上である、の2つが満たされている必要があります。
台風が熱帯低気圧(tropical cyclone)の構造から、温帯低気圧(extratropical cyclone)の構造に変化して、台風ではなくなったときに「台風は温帯低気圧に変わりました」と表現されます。これは1番目の条件を満たさなくなった場合です。熱帯低気圧は中心付近が「暖かい空気のみ」で、そこに移動している海域の海水温などの影響で、「暖かくない空気(冷たい空気)」が含まれると熱帯低気圧ではなくなる、ことによります。
次に、2番目の条件である中心付近の最大風速が、台風の最低基準を下回った場合、「台風は熱帯低気圧に変わりました」と発表されます。台風の風速基準は下回ったものの、熱帯低気圧の条件は満たしている場合です。
最近の台風
2023年 令和5年
2022年 令和4年
2021年 令和3年
2020年 令和2年
2019年 平成31年・令和元年
2018年 平成30年
台風に関するリンク
1年間に発生する台風の数|1951年の統計開始以降の月別台風発生数
気象庁命名台風と中心気圧・最大風速・最大瞬間風速の観測記録|上陸直前の中心気圧が最も低い台風
気象庁が命名する顕著な災害を起こした自然現象の名称 基準と付け方
台風と塩害 舞い上げられた海水が内陸部にも影響 停電や農業被害・鉄道トラブルも 車は洗車を
ハリケーンの定義と名前の付け方 アメリカ合衆国の気象機関と合同台風情報センター
JTWC(Joint Typhoon Warning Center)合同台風警報センターとは
JTWC(Joint Typhoon Warning Center)合同台風警報センター発表内容の見方