気象用語としての流氷と海氷
一般に「流氷」と「海氷」は、厳密に区別されていない。
また、日本では海にある氷について「流氷」と表現することが慣例的にみられる。
気象用語としては、下表また後述の通り、「海氷」は海に浮かぶ氷の総称で海水が凍結したものであり、「流氷」は海氷のうち海を流れ漂い海岸に定着していないものを示す。
日本のオホーツク海をはじめ、バルト海、セントローレンス湾、ハドソン湾、ベーリング海、及び南極の氷は「一年氷」と呼ばれ夏季に融解する。一方で、北極の氷は多くの場所で3〜4mの厚さがあり、大きいものでは20m超に達し、これを多年氷と呼ぶ。
流氷と海氷の気象用語
用語 | 区分 | 説明 |
---|---|---|
海氷 | 海に浮かぶ氷の総称。 | |
備考 | 国際的には海水が凍結したものを海氷と分類し、氷山など淡水由来の氷と区別することもある。 | |
定着氷 | 海岸に定着している海氷。 | |
流氷 | 海氷のうち、海を流れ漂い、海岸に定着していないもの。 | |
備考 | 国際的にはこのうち海水が凍結したものだけを流氷とすることもある。 | |
新成氷 | 結氷により新しく生成した氷。 | |
密接度 | 海氷域内のある領域を対象として、氷に覆われている海面の割合。 | |
用例 | ○○沖では、海氷の密接度が高く、船舶の航行は困難である。 | |
海氷域 | 海氷のある海域で、密接度1/10以上。 | |
開放水面 | 航行可能な広い海域で、その中に海氷があっても密接度は1/10未満。 | |
水路 | 海氷域の中で、船舶の航行が可能な割れ目や狭い通路。 |
沿岸の海氷現象に関する用語
用語 | 区分 | 説明 |
---|---|---|
流氷初日 | 視界外の海域から漂流してきた流氷が、視界内の海面で初めて見られた日。 | |
流氷終日 | 視界内の海面で流氷が見られた最後の日。 | |
流氷期間 | 流氷初日から流氷終日までの期間。 | |
全氷量 | 観測地点における視界内の全海域(港内を含める)に対して、海氷の占める割合。10分位で表す。 | |
流氷接岸初日 | 流氷が接岸、または定着氷と接着して沿岸水路が無くなり船舶が航行できなくなった最初の日。 | |
海明け | 全氷量が5以下になり、かつ沿岸水路ができて船舶の航行が可能になった最初の日。 |
海氷の基礎知識
地球表面の約7割は海に覆われているが、海氷が最も広がる季節(11月頃)には、全海域の約1割が海氷で占められる。
海氷は海水と大気を遮断するため、両者の熱、水蒸気などの交換に大きな影響を与える。また、太陽光の反射率は海氷面では海水面の4~8倍であるため、日射によって得られる熱量も大きく減少する。
このように海氷の存在は、大気と海洋に大きな影響を及ぼし、異常気象や地球温暖化などの気候変動の実態把握、それらの機構解明のためには全球的な海氷データが不可欠である。このため、世界気象機関(WMO)では、コンピュータ処理が容易にできるデジタル化した全球の海氷データバンクを構築する計画を推進している。
気候変動と海氷
海氷は地球温暖化のセンサー
海氷は海水面に比べ太陽光の反射率が大きいため、海氷が拡がっていると、地球が太陽のエネルギーを吸収して昇温する割合が小さくなります。また、海水温は凍らない限り-2度以下にはなりませんが、海氷が海面を覆うと海水から大気への熱輸送が遮断されます。この二つの特徴から、気温が上がり海氷が融解すると、太陽熱の吸収率が上がり、海水から大気への熱輸送も増加して、ますます気温が上昇するというフィードバック効果が生まれます。つまり、海氷はわずかな気温変化に対しても大きく変動する高感度なセンサーといえます。
海氷が陸氷の海洋への流出を抑制する
海氷が無くなると陸地の氷河の海洋への流出量が多くなると考えられます。これは海面上昇につながります
海洋循環への影響
海水は凍るときに塩分を排出します(多少の塩分は海氷中に閉じ込められて残りますが)。極周辺の海氷の生成域では高塩分・低温の非常に密度の大きい海水が大規模に作られ沈降します。この流れが深層の海流の駆動力の一つと考えられています。深層の循環は非常にゆっくりとしたものですが、地球全体の気温のバランスを保つ上で重要な役割を果たしていると考えられています。
まだまだ未解明な部分も多い
温暖化により地球全体として気温が上昇していること、北極域の海氷が減少していることなどは観測で確かめられています。しかし、南極域の海氷面積は緩やかに増加しており、北極域でも全ての海域で海氷面積が減少しているわけではありません。温暖化と海氷域の減少を単純に結びつけることは出来ません。
温暖化は大気や海流の大きな流れにも影響を与えるため、風により海氷が今までよりも拡がったり、場所によっては寒冷化するといったことも、一部の数値シミュレーション結果には現れています。
人工衛星による海氷の観測は歴史が浅く、資料の蓄積がまだ十分とはいえません。海氷の平面的な拡がりは観測できるようになりましたが、海氷の厚さの観測はまだ研究段階ということもあり、海氷の総量の観測はほとんど行われていません。
海氷の影響(北海道)
海面が海氷に覆われていると日照時間が長くなります
海面からの水蒸気の補給が無くなるため雲が発生しにくくなります。
海面が海氷に覆われていると気温が低くなります
海面が凍っていなければ海水温は-2度以上あり、沿岸付近の気温は内陸ほど低くはなりませんが、流氷が接岸すると海水の熱が大気に伝わらなくなるため気温が低くなります。
海氷の表面の放射冷却は内陸と同じように起きますし、海側から吹いてくる風も暖められることなくやって来ます。
海面が海氷に覆われていると寒さが長く続きます
日平均気温の変化を見ても、他の地方では1月末に最低となって2月に入ると昇温するのに対し、オホーツク海沿岸では鍋底のように2月半ばまで低温が続きます。海氷面は地面・海水面に比べ太陽光をより多く反射し太陽エネルギーを吸収しにくいため暖まりにくいためです。
海氷と北海道日本海側の局地的大雪
北海道のオホーツク海側沿岸が海氷に覆われると、北海道上の内陸性の寒冷高気圧の発達を促し、この高気圧から吹き出す風と、北西の季節風との収束域に大雪をもたらすことがあります。
海氷と波浪
海氷が沖合いに拡がっていると、風が海面を吹き渡る距離が短くなるため波浪の発達が抑えられます。しかし、発達した低気圧の場合などは波とともに流氷が押し寄せ、大きな災害となることもあります。
海氷用語
海氷の種類
種類 | 記号 | 細分種類 | 記号 | 厚さ・大きさ等 |
---|---|---|---|---|
新成氷 | N | 晶氷 グリースアイス 雪泥 スポンジ氷 |
Cr Gr Sl Sg |
– |
ニラス | Ni | 暗いニラス 明るいニラス 氷殻 |
Nd Nl R |
厚さ5cm未満 厚さ5~10cm 厚さ5cm程度 |
はす葉氷 | P | はす葉氷 | P | 直径30~300cm,厚さ10cm程度 |
板状軟氷 | Y | 薄い板状軟氷 厚い板状軟氷 |
Y1 Y2 |
厚さ10~15cm 厚さ15~30cm |
一年氷 | W | 薄い一年氷 並の一年氷 厚い一年氷 |
W0 W1 W2 |
厚さ30~70cm 厚さ70~120cm 厚さ120cm以上 |
砕け氷 | Br | 砕け氷 | Br | 直径2m以下 |
板 氷 | Ck | 小板氷 板氷 |
Cs Ck |
直径2m未満 直径2~20m |
氷盤 | F | 小氷盤 中氷盤 大氷盤 巨氷盤 巨大氷盤 |
Fs Fm Fb Fv Fg |
直径20~100m 直径100~500m 直径500~2000m 直径2~10km 直径10km以上 |
注:厚さ10~15cmは10cm以上15cm未満とする。
海氷(流氷)の観測
毎年、青森県の海上自衛隊八戸航空基地に所属する哨戒機が空中から流氷を発見・観測、その結果報告が報道されています(1960年からの恒例)。
日本における組織的な海氷観測は、1892年(明治25年)1月1日に北海道庁の網走、根室などで開始されました。初期においては船舶や気象観測所からの目視による観測が沿岸の海氷を監視する唯一の方法でしたが、1930年代には海氷観測に航空機が利用されるようになり、広範囲にわたる海氷分布の観測が可能となりました。
1960年代に入ると、人工衛星の利用が開始され、オホーツク海全域における海氷の分布や変動を詳細に解析できるようになり、現在に至っています。
気象庁では、海氷域の解析、海氷域面積の計算を半旬(毎月5日、10日、15日、20日、25日および月末)ごとに行っています。
オホーツク海、日本海、渤海
統計が開始された日
観測点名称 | 北緯 | 東経 | 統計期間 | |
---|---|---|---|---|
稚内 | Wakkanai | 45度24.9分 | 141度40.7分 | 1946年1月~ |
北見枝幸 | Kitamiesashi | 44度56.4分 | 142度35.1分 | 1946年1月~2004年5月 |
雄武 | Omu | 44度34.8分 | 142度57.8分 | 1946年1月~2004年5月 |
紋別 | Monbetsu | 44度20.7分 | 143度21.3分 | 1956年1月~2007年5月 |
網走 | Abashiri | 44度01.0分 | 144度16.7分 | 1946年1月~ |
根室 | Nemuro | 43度19.8分 | 145度35.1分 | 1946年1月~2010年5月 |
釧路 | Kushiro | 42度59.1分 | 144度22.6分 | 1946年1月~ |
人工衛星による観測
静止気象衛星 可視・赤外データ(気象衛星ひまわり)
極軌道気象衛星 可視・赤外データ
Terra・Aqua(アメリカの地球観測衛星) 光学センサデータ
GCOM-W(JAXAの水循環変動観測衛星) マイクロ波放射計データ等
RADARSAT(カナダの地球観測衛星)マイクロ波合成開口レーダーデータ(2015年まで)
航空機・船舶による観測
自衛隊機による目視観測・レーダー観測
海上保安庁の航空機による目視観測
一般船舶の船舶気象通報
海上保安庁の巡視船による海氷観測
沿岸流氷レーダー
北海道大学低温科学研究所による北海道オホーツク海沿岸の観測(2004年まで)
北極域と南極域
人工衛星に搭載したマイクロ波放射計による観測データ
北極域・南極域の海氷解析は、人工衛星に搭載のマイクロ波放射計による観測データにより行っています。利用した衛星は、1978年10月~1987年7月までNimbus-7、1987年7月以降はDMSPシリーズです。
品質管理により異常データは除去していますが、センサーの特性により、日本周辺の海氷域については、上記の詳細解析と若干の違う場合もあります。
オホーツク海周辺図